遠まわしな君の世話焼きも、僕のことを信じて待っていてくれた二人の気持ちも、 全部どんな薬よりも僕に癒しをくれる。


<薬用ライフ・10>


「吹雪、いいかげん起きろ」
教授に見つからないように、できるだけこっそり僕の頭をはたきながらも黒板を見つめる亮。 みつかったらこっちも巻き込まれるんだ、と小声で内心を漏らしつつ。
「昨日予習してきちゃってさぁ・・・つまんないんだよ」
「・・・・好きな教科だったか?」
「ん~、むしろ愛おしいくらい」
「・・・・・。はぁ」
少し考える様子を見せたかと思えば、分かったのか深いため息を吐く。
ちょっと傷つくんだけどなぁ、亮くん?
「だったらちゃんと聞いていろ」
「でもあの教授の説明は「吹雪」・・・・はい」

素直に返事をした直後、教授に見つかってしまい、「私語をつつしめ、このアイドル!!」 と半分やつあたりな説教をうける羽目になった。
僕と亮、それから巻き添えの生徒が5人ほど。 そのおかげで明日香との約束に遅れてしまったのだが・・・・・。


「兄さん・・・・・何か言い訳があるなら聞いてあげましょうか?」
とても聞くような雰囲気ではない気がするのは気のせいだろうか・・・。
けれど、ちゃんと待っててくれた可愛い妹に、謝罪として手の甲にキス・・・・と思ったところで はたかれた。
今日ではたかれたのは二度目。回数が増すごとに、痛みも増すのだろうか? 遠慮なくはたかれた手をさすりながら、先に行ってしまった明日香を追う。
地面を蹴って、風が生まれるように速度を速め、走る。
頬に当たる風は生暖かく決して気持ちの良いものではなかったが、世界のことなんか お構いなしに晴れ渡る空を見て笑みをこぼす。

大丈夫。

大丈夫だ。


「明日香!捕まえてごら~ん!!」
「兄さん!!恥ずかしいことは止めて!!!」
などと言いつつ走る明日香は、僕を追いかけていることにかわりはない。 遠目から見れば逆ハニー、ダーリン状態に見えてしまうだろう。 明日香もまだまだだなぁ、などと思いつつ速度は緩めず。

ハニーとダーリンが見事に逆転している光景が目撃された。

亮と翔に。

「ま・・・またっスか吹雪さん・・・・」
「また吹雪の悪い癖が・・・・」

こんな彼らの日常はきっとこれからも続くのだろう。

きっと。




***



「本当にこれでよかったのか?」

「これでいいんだよ。まさか思い出してくれるとは思わなかったけど」

「よく言うぜ・・・」

「・・・・・・・・。まぁでも、あんなに馬鹿に元気になるのは予想外だったね」

「あー確かに」

「亮と明日香ちゃんに悪いことしちゃったかな・・・」

「で、未練は?」

「ないよ。本当にありがとう」

「いやいや。仕事のついでだからさ」

「けど仕事のついでにしてはなかなかのお人よしだね」

「どっちが」

「君には言われたくないよ」

「減らず口だな~」

「じゃぁ僕はこれからどうなるの?死に神さん」

「ん~っと、これから少し眠ってもらうかな?」

「眠る?」

「そう。来世に向けて魂を休めてもらうんだ」

「来世に向けて・・・ねぇ・・・」

「それじゃ、よい夢を」

「ん。おやすみ」

「おやすみ」




その日常があなたを癒す薬となって、あなたが元気になりますように。

元気になったらまた会おう?

それまでおやすみなさい。




(最終話あとがき)
「薬用ライフ」完結―!読んでくださった方々有難う御座います!! 嬉しいです!結婚しy(殴)
ジャスト10話を目指していたので、ちゃんと目標どおり10話で終わってよかったです。

脳が勝手に判断して記憶を封じる、というのは実際あるようですね。 自己防衛システムが働くからだとか・・・。 でも、もし脳が封じたものが本当は自分にとって大切なのもだとしたら、 それは幸せなことなんでしょうか? 自己防衛が自分を追い詰めるものなら、どうすればいいのか。
そんなこと本人にしかわからないのでしょうが、
その本人すらそのことに気づかないのはあまりにも酷な話ですよね。 そのことをテレビで見て、こう思ったのが「薬用ライフ」のきっかけのひとつでした。

もうひとつは、抹茶アイスです(^^) 私自身抹茶アイスがすきで、食べてるときに 「緑色の子が緑ものを食べてるとかわいいなぁ」と思ったのがきっかけです。 緑色の子といったら藤原だろう!!じゃぁ吹雪さんもでないと!!(とんだとばっちり) そう脳内でとんとん拍子でことが進んでしまって・・・・。

抹茶アイスを思い出したら、藤原も芋づる方式で思い出してもらえれば嬉しいです (人はそれを洗脳というよ!)

ろくに感動できないものですみませんでした。文才ほしい・・・。 お付き合いいただき有難う御座います!感謝感謝です! では、ここまで読んでくださって有難う御座いました!

(追記)吹雪が愛おしいと言った教科は、藤原が好きだった教科です。 では、本当にお粗末さまでした。