「おはよう、亮!」
「ふぶ・・・・き・・・・?」


<薬用ライフ・5>


どうして何も無かったかのように笑顔でいるんだ。 これで藤原がいれば本当に「何も無かった」ことになるのに。

あの存在は確かにここにあったはず。なのに・・・。

いや、今は思い出しているときではない。吹雪のことだ。一体どうしたというんだ?

「吹雪、お前藤原のことは・・・・・」




「藤原・・・・?そんな子いたかい?」


いたか・・・・・だと・・・・・?
吹雪のセリフに驚いた生徒達が言葉をなくし、呆然とする。 声が届かない距離にいる生徒達は次第に静かになる教室内と一体となった。

嫌に静まり返る教室内。
誰もしゃべらなくなったときに、最悪な、だけど今の状況であろう全てを予測した。

今はまだ、これ以上かき回してはいけない、そう判断して俺は話を切り替えることにした。

「・・・・吹雪。明日香は最近どうなんだ?」
「明日香かい?もちろん元気に青春してるさ!今や学校中のアイドルだよ!」
吹雪がいつものように妹の自慢をはじめると、 黙っていた生徒達はまた口を開き、各々にしゃべり始めた。


藤原、お前がいないと全てがこんなにも変わる・・・まるで狂ったように・・・・


***

医者に見せたわけでもない。医学をかじっているわけでもない。
けれど、俺の頭は一つの予測をだした。

吹雪は記憶喪失なのだと。
記憶喪失といっても普通のように全てを忘れるような症状ではなく
吹雪は藤原との記憶だけをすっぽりと喪失したのだ。


「まさか兄さんがそんなことになってるなんて」
「といっても俺の推測でしかないのだが」
「いいえ、それであってると思うわ。いくら辛いからって、兄さんがそんなタチのわるい冗談を言うはずないから」
「・・・そう・・・だな」

できればこんなこと当たって欲しくないのだが、きっとこれが現実だ。

「・・・・どうすればいいのかしら・・・・?」
明日香らしくない、沈んだ不安そうな声が問いかける。 「藤原さんのことを教えるべき?・・・・それとも兄さんが自分で思い出してくれるまで待つべき?」

吹雪に藤原の存在を伝え、今までを教える・・・・それはなんだか違う気がした。

藤原のことを大切にしていた吹雪のことを考えれば、きっと・・・


「待つべきなんだろうな」
「そう・・よね・・・」

待つしかない・・・・ただ、吹雪を信じて。



(あとがき)
次からは「現在」の軸に話が戻ります。吹雪と藤原メインです。 藤原の死んだことを想像したら泣きそうになったのは秘密です。書いてるくせにね(ぐすっ)