<薬用ライフ・4>


藤原が交通事故にあったのは数週間前のことだった。
信号無視の車による一方的な事故。そしてひき逃げ。

吹雪が病院に駆けつけたときには、藤原は出血が酷く危ない状況だった。
輸血のパックが足りなくなると、まっさきに吹雪は自分の血をつかってくれと医者に頼んだ。 あんなに必死な友を見たのははじめてだった。



・・・・しかし、




弱まった藤原の心臓は己の血を巡らせることもしなかった。


目の前で、何も出来ず・・・・・・・・。


扉一枚外で待つしかない俺達にできることは神頼みしかなかった。

ああ、奇跡なんてしょせん言葉だけじゃないか・・・・・

窮地におきるものが奇跡なのだろう?そうだろう?じゃぁ、どうしておきなかったんだ!?
いつか人間なんぞ死んでしまうもの、

アンタはそう突き放したのか。



「藤原・・・・・・・」


かすれる声で名前を呼んで、吹雪は血色をなくした藤原へ近づく。
「ごめん・・・」

「ごめん」


「・・・・っ・・・・ごめん・・・・」




何に対しての「ごめん」なのか分からなかった。 けど、吹雪はこたえない藤原へずっと謝り続けた。


俺はなんと言えばいい?

俺はあいつになんと声をかければいいんだ。

***

それから藤原の通夜があって、葬式があって、現実はたんたんと藤原の死を受け入れた。 大学の出欠確認では藤原の名前が呼ばれることもなくなり、 藤原の名前が飛ばされるたびに俺は怒りを覚えた。
普通に考えれば当たり前なのだ。
いなくなった生徒の名前をわざわざ呼ぶことなんかしない、それが普通・・・普通なんだ。
だが、藤原はそれを望んだわけではない。
あんなことがおきなければ今でも俺と吹雪の間に座って講義を受けているはずだった。


藤原の葬式の翌日、吹雪は休むものだと思っていた。 だからノートをとっておこう、そう思っていた。 友に何の言葉もかけることができないせめてもの償いとして。

だがしかし、


「おはよう、亮!」
「ふぶ・・・・き・・・・?」



そんな俺の予想に反して、数週間前とおなじ笑顔で吹雪は教室にはいってきた。



(あとがき)
吹雪さんは「ごめん」じゃなくって「すまない」っていうタイプですけど、 子供が落胆したときのように「ごめん」で・・・