彼は「水分ばっかりとってもおなかは満足しないだろ?」といって、
親切に消化によいものをつくってくれた。
おいしい。
しかし、そのおいしいものをつくった本人は、 料理ではなく2個目となる抹茶アイスに手を付けていた。


<薬用ライフ・2>


「アイスだけじゃ足りないだろう?それとも材料一人分しかなかったかい?」
「僕は大丈夫だよ。ただ今は甘くて冷たい物が欲しいんだ」
「それはそれでおなかに悪いんじゃないか?」
「だって天上院の買ってくる抹茶アイス、好きなんだ・・・」
何故かアイスを選ぶセンスを褒められて、肩の力が抜ける。
抹茶アイスの緑のカップ、白と紫でデザインされたスプーン、柔らかな緑色の髪、紫色の瞳。 見事に配色がまとまっている彼を見て、自分の部屋がその2色に侵食されていることに気づく。 緑と紫、原色ではきつい組み合わせかもしれないけど、彼のもつ2色は柔らかで綺麗だ。 だから侵食されていることにたいして拒絶の気持ちはなく、 むしろ心地良いとすら思ってしまう。
「?・・・どうした?まず・・・かった?」
「いやそうじゃないよ、料理はとっても美味しいし、
いいお嫁さんがいて嬉しいなぁ、って思っただけだよ」
「・・・・・・よくもまぁ、そんなにペラペラと・・・」
あきれた、といわんばかりの顔。けれど、ほんのり赤くなっている。 彼はそれを隠すように、僕に背を向けてテレビに意識を向け始めた。

料理を食べ終えたころ、彼はこちらに向き直り、優しい顔でこう言った。




「僕は・・・・天上院が辛いのなら忘れてくれてもかまわない。けど、体に悪いことはしないでほしいな」

彼がちらりと目をやったのは、空になったビール缶の山。

忘れる・・・・?

いや、それよりも彼は何を言っているのだろう?僕は彼のことを・・・・・・・あれ?


・・・僕は彼の何を“知っている”?



名前を呼ぼうと口をひらく。けれど、続かなければならない空気の振動は喉の奥に詰まったままで。

名前が・・・わからない・・・・

何を言えばいいのかわからなくなったとき、彼は困ったように笑って、かすめるようなキスをしてきた。
ほんの少しかすめた彼の唇の温度がやけに懐かしかった。テレビの音、外に響く虫の声、抹茶アイスのほのかな甘いにおい
・・・・・そして、今、目の前にいる彼が妙に非現実的だった。


「・・・・どう・・・・し、て・・・」

鼻の奥がツンとして痛い。

まぶたが熱くて痛い。

呼吸をすることが痛い


頭と胸が・・・いた・・・・い・・・・