「で、未練は?」
「ないよ。本当にありがとう」
「いやいや。仕事のついでだからさ」
「けど仕事のついでにしてはなかなかのお人よしだね」
「どっちが」
「君には言われたくないよ」
「減らず口だな~」
「じゃぁ僕はこれからどうなるの?」
「ん~っと、これから少し眠ってもらうかな?」
「眠る?」
「そう。来世に向けて魂を休めてもらうんだ」
「来世に向けて・・・ねぇ・・・」
「それじゃ、よい夢を」
「ん。おやすみ」
「おやすみ」



<存在理由・1>



「任務終了。次は? ・・・・・え?また若い奴?もう少し生かせるとかしないわけ?まったく・・・
・・・・・・・・・・・・・わかってるって、やるにはやるから。 ・・・・・はいはい。じゃぁな」

ぴっ

しぶしぶ、といった様子で電話を切るのは、黒い衣装の男。 男と言い切るにはまだ幼い気もする。ぱっと見、16~18くらいだろうか?

だが、見かけだけでこの男の年は決められない。

人ではないのだから。

「あ~ぁ、またかぁ。若い奴ばっかり。少子化進めてどうするんだよ、閻魔サマ」

ぶつぶつ上の者に反発の意をこめてつぶやく。 閻魔、つまり死する魂の裁判官。天界を統べる者の一人。 そして、この男は天界の使者で、死神。魂を狩る者として有名な天界人。

「やぁ、ヨハン。浮かない顔してるね。また若い奴?」
その男に近づき声をかけたのも、死神。ヨハンと呼ばれた男は、同じ顔をみてため息を吐く。
「ハンスか・・・そうなんだよ。また若い奴でさ~。今回は17歳」
ヨハンの髪よりも少し緑色よりな髪を揺らし、ハンスは笑った。
「ヨハン、僕らだってまだ若いじゃないか。そんな言い方してるとおじいさんみたいだよ?」
「何言ってるんだよ。人間からしたら、俺達だってじいさんだろ?」
「年だけはね。でも、見た目は若いじゃない。体力だってある」
オレンジの瞳が、何かを思いついたように細くなる。
「なんなら、体力測定でもしてあげようか?」
「・・・・・・・・遠慮しとく」
「せっかく双子なんだから、遠慮しない!」
「せっかく、ってなんだ!?せっかくって!!」
腰にへばりつくハンスを離しながら、仕事場へ向かう。

「じゃぁ、夜まで楽しみにしておくよ。今日はかえってくるんでしょ?」
「楽しみにしなくていい。絶対にお断りだからな。・・・一応帰るけど・・・」
これから、狩る予定の魂(ターゲット)についての書類をうけとる為に、 仕事場に向かわなくてはならない。

・・・・どうか、年食ってる奴にかわりますように。


祈ることでかえられるわけでもない。
わかってるけど、どうしても若い奴はいやなんだ。 死神が神頼みというのは滑稽かもしれない。
けど、死神だって神なんだ。おかしくはないだろ?
あれ?おかしいか。神の端くれが、神頼みなんて・・・。


「NO98-6、ヨハン・アンデルセン。ターゲットについての確認にきた」
「こちらがターゲットについての書類になります」
「ああ、ありがとう」

事務的な態度でしゃべるのは好きじゃない。すごく窮屈で落ち着かない。

それをたんたんとこなす受付から書類をうけとる。
「予定日はいつもどおり一週間後となります」
「わかった」
相槌をうち、なるべく足早にその場からはなれる。

一週間か・・・・。

「・・・どうか幸せな日を遅れますように」

神の端くれが神頼み。けど、祈らずにはいられない。
生きることでしか、幸せは巡ってこない。
死んでしまえば幸も不幸も巡りはしない。
ならば生きる最後まで幸せでいてほしい・・・
でも、俺達死神が出来るのは魂を狩ることのみ。
だから、神頼みしかないんだ・・・。


***


死があるからこそ、人は生きる。
光が影を生み出し、光と影が対の存在ながら離れられないように。
生があるから、死はある。

それはかえられない世界の原理。

原理を崩さない為に俺達は存在する。 生には死を。死には迎えを。

迎えは我ら死神が。


(でも、俺だって好きで死神なわけじゃない)
(死を狩るだけが存在理由なんて認めたくない)



(あとがき)
薬用ライフのように話の流れが決まってるわけではないので、 思いつき思いつきで話を進めることになりますが、お付き合いいただければ嬉しいです!