本日も快晴。庭園の見回りをしながら晴れ渡った空を見上げる。
色とりどりの花に、澄み渡った青空。思わず顔もほころぶ。
なんて良い昼寝日和なんだろうと思う。
仕事をハンスに頼んでしまおうか。どうせ、こんないい日に馬鹿なことする奴なんかいないだろ
うし。などと不真面目なことを考えながら欠伸をする。平和だ。
「のん気だね」 その声とともに目の前にふってくる同じ顔。情けないことに大きな声を上げてしまった。 (こんなのいつものことだと言うのに)同じ顔と言っても瞳の色と、周りが言うには全体的に 何か違うらしい。よくわからないが。そんな同じ顔、双子の兄をにらむ。 「ハンス!びっくりしただろ・・・って、どこからぶら下がってるんだよ」 「んー、窓枠から」 どうやら窓枠に足をかけてぶら下がってきたようだ。よくやる、と半分呆れながら呟けば俺にも できると返された。やらねぇよ。ブラブラと揺らしていた上半身を起こして、窓枠に座る。 一度部屋に戻ったかと思えば、何やら思い出したようにあ、と声を上げて戻ってきた。 今度はぶら下がらずに、窓枠から身を乗り出すようにして話しかけてくる。 「そういえば、王子に呼び出されてたんだ」 「いつ?」 そう聞けば楽しそうに笑顔をよこすハンス。こういうときは大抵悪いことがある。 そして、それを確信してのこと。それを笑顔で告げるハンスは本当たちが悪いと思う。 「8時。ちなみにあと10分だよ」 「早く言ってくれよ!」 走りながら文句を言う。ここから王室までどんだけかかると思ってんだ!ヨハンならなんとか なると思ってさ。大丈夫だよね、ヨハン?・・・・だからさ、その笑顔やめてくれって。 ゆっくりしたいと思ってたのになぁ・・・。そういうときに限っておつかいを頼まれるもの、 それで諦めておこうか。 <在りし日の空色> 「なんか汗だくだな。大丈夫か?」 言葉では心配しつつも声は笑っている。この目の前にいる人こそ、二人を呼び出した「王子」だ。 全力疾走したせいで息が乱れ、とぎれとぎれに何もと返すヨハンに対して、「何も」 に続けるように「ありませんよ」と返すハンスはけろりとしたもの。息を整えながらも うらめしそうに横目でじとりと睨む。 「さて、息は整ったか?ヨハン」 「ええ、もう大丈夫です。」 それは良かったと、向けられる微笑が純粋なもので思わず涙が出そうになった。 横にいるのとは大違いだ。 「それでは、本題に入ろうか・・・」 ここは人間とモンスターが共存する国。この国を治めているのが遊城 十代。 まだ大人ではないため多くの者に王様ではなく、王子と呼ばれている。 年齢だけではなく、彼自身、堅苦しいことが苦手でそのまま王子で呼ばれるほうがいい、と 言ったことも理由の一つだ。 しかし、なぜ十代のような年の子供が王様をしているかと言えば、前代の王様、王妃が流行り 病で共にお亡くなりになったから。王様と王妃が同時に亡くなった時、城の者も城下の者も 悲しみ、そして国の行くに表情を曇らせた。そのとき十代が「俺が国のすべてを支える」と、 王になることを、国を背負うと言った。いくら王子だからとはいえ、子供が国をうごかすのは 無理だ、と反対する者もいた。それでも、十代は王としての仕事をこなしていった。 十代の姿を見て、反対の声も次第になくなり、今では誰もが誇る「王子」となっている。 仕事の面で多くの者に認められているのもそうだが、人柄も良い。人を統べる立場にあるからと 言って横暴なことはせず、さりげない気配りもする。 もちろん城の者だけではなく、城下の者にも分け隔てなく接しており、どの人にも評判が良い。 そんなこの国の誇りをお守りするのが、双子の護衛。腕が立ち、王子の信頼が厚いことから 「守護者」とも呼ばれている。 護衛の仕事を抜きにしても、十代はずっと前から二人のことを信頼しているし、同じように二人も ずっと前から「十代」を信頼している。王子、王様としてではなく。 ずっと前からというのは、十代や二人が小さな頃。十代の父親・・・前代の王が国を治め、 二人の父親が護衛をしていた頃からのこと。王様が十代の遊び相手にと、一番信頼していた 二人の父親に、子供を連れて来てくれないかと頼んでからずっと。 当時の二人は十代が王子だということをよく理解していなかったからか、 あまり実感していなかったからか、大人達が悲鳴を上げるような遊びをしていた。 ようやく十代と自分達の立場を理解した時でさえ、二人は、いや十代も態度を かえるようなことはしなかった。もちろん、仕事の面ではきちんと敬語を使って敬う。 それでも、三人だけのときは小さな頃のように笑い合っていた。 「・・・今回の件、頼めるか?」 王子になるといってからの十代の頑張りは凄かった。反対していた大人たちでさえ 認めるくらいに。そりゃあ、確かに十代は凄い。それはずっと一緒にいた俺たちも知ってる。 十代が凄いから、国民の期待も大きくなる。そして、またそれに応えようと頑張る。 けれど、その頑張りは自分を犠牲にしてのものだとは知られていない。知ってるのは俺たちや 一部の人。力を抜かそうにも、頑固な性格だから難しい。だからこそ、少しでも仕事の負担を 減らしたい。国を支えるその身を支えたい。守りたいと思う。十代を、王子を、この国を。 「お望みなら」 それが俺たち双子の守護者だから。 + |